遺言(いごん・ゆいごん)とは,被相続人の最終の意思表示のことです。遺言を作成しておくことにより,相続財産の承継について,被相続人ご自身の意思を反映させることが可能となります。ただし,遺言はただの遺書とは違います。法律で定められた方式で作成されたものでなければ法的効果を生じません。法律で定められた遺言の方式としては,自筆証書遺言,秘密証書遺言,公正証書遺言などがあります。
「遺言」は,一般的には「ゆいごん」と読まれますが,正式に言うと,法律上は「いごん」と読まれます。法的にいうと,遺言とは,被相続人の最終の意思表示のことをいうと定義されます。最終の意思表示といっても,いわゆる「遺書」のように,死の間際にした意思表示という意味ではありません。
その遺言をした人(遺言者)が,その人の死に最も時間的に近接した時点でした意思表示という意味です。死の間際である必要はありません。被相続人の最終の意思表示とは,要するに,自分の死後に生じることになる財産の処分等の法律行為に対しても,自分の意思表示の効力を及ぼすことができるということです。
この遺言は,被相続人となる方(遺言者)が,相続による遺産の承継について,ご自身の意思を反映させるためにとることができる唯一といってよい方法です。自分で築いてきた財産の帰趨を,ある程度,ご自身の遺志に沿った形で相続人に配分することができるというわけです。
また,遺言者の意思を遺せるというだけでなく,遺言をしておくことによって,相続人間での,不毛な骨肉の争い(いわゆる遺産争い)を予防しまたは最小限化させることができるという意味をもっています。その意味で,遺言は,被相続人にとって,ご自身の意思に基づいて遺産の相続をしてもらえるというメリットだけでなく,後に残される相続人にとっても,無用な争いを最小限化できるというメリットもあるのです。
人は,生前であれば,自由に法律行為をして自分の法律関係を形成することができます。しかし,人は死亡すれば権利義務の主体でなくなるので,本来であれば,自分の死後に生じる法律関係に影響を及ぼすことはできないはずです。
もっとも,自分が築いてきた財産等についてその死後は何も影響を及ぼすことができないとすると,その人の意思に反する結果となる可能性があり,個人の私有財産を保障する私的自治の原則の趣旨に反することになるおそれがあります。その趣旨に沿うようにするためには,個人の権利義務に対するその人の意思は,その人の生存中のみならず,死後においても,尊重されるのが望ましいといえます。
そこで,個人の意思を尊重するため,私的自治・法律行為自由の原則を拡張し,その個人の法律関係に関する意思を,その個人の死後においても効果を生ずるようにした制度が,この遺言という制度です。